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犬のアレルギー診療の進め方(皮膚症状)

1.まず最初に臨床症状をチェックする:こんな症状があれば「アトピー性皮膚炎」を疑う。

どのような皮膚炎?:下記の皮膚炎の特徴を全て満たす。
  • 痒みを伴う皮膚炎
  • 丘疹、膨疹、紅斑、苔癬化の少なくとも一つ以上の皮膚病変
  • 慢性あるいは再発性の皮膚炎
  • 3歳以下で発症(飼い主さまが初期症状を認識していない場合があるため、丁寧にお聞きする。)
どんな病変?:下記の病変部位の特徴をどれか一つでも認めれば良い。
  • 眼および/あるいは口周囲(写真1)、外耳炎の発症
  • 四肢端(趾間)、手根部伸展部位、足根部屈曲部、大腿部外側の発症
  • 胸部および/あるいは腋窩部、肘屈曲部の発症(写真2)
  • 会陰部および鼠径部を含む腹部の発症
  • 背中の発症
 
特に「食物アレルギー」の場合は・・・

(こんな行動をとっていたら要注意)

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2.次に食物アレルギーを疑うか疑わないかで検査を選ぶ。

4つの臨床徴候のいずれもない:食物アレルギーを疑わない。
  • 犬アトピー性皮膚炎から疑う。
  • アレルゲン特異的IgE定量検査を実施する。
4つの臨床徴候のいずれかがある:食物アレルギーを疑う。
  • 食物アレルギー単独あるいは犬アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの合併を疑う。
  • リンパ球反応検査とアレルゲン特異的IgE定量検査を実施する。
    注:リンパ球反応検査はステロイド剤やシクロスポリンの影響を受けるため、治療開始前に実施する。

オプション検査:アレルギー強度検査の使い方(ステロイド剤を使いたい時)

アレルギーで皮膚に集まるヘルパーT細胞の割合が多いかどうかを見る検査です。
この検査での異常値は皮膚炎を重症化しやすい体質があるといえます。
異常値では副腎皮質ステロイドホルモン剤を投与した方が良いでしょう。

3.最後に原因アレルゲンが判ったら治療する。

犬アトピー性皮膚炎の時(環境アレルゲンにIgEが上昇する)
  • 抗ヒスタミン薬による早期介入療法を実施する。
  • ダニのアレルギーは、減感作療法を実施する。
  • 環境改善(フローリング、医療用防ダニ布団、空気清浄機)
食物アレルギーの時(食物にIgEまたはリンパ球が反応)
  • 原因食物を除いた製品を選び、除去食療法を実施する。

除去食療法とは

AACL(動物アレルギー検査株式会社)が考える
獣医師による除去食療法のプロセス

アレルギーの治療には、原因をはっきりさせることが何より大切です。なかでも食物アレルギーの場合、アレルゲンとなる食材が特定できればその食材を避けることで、症状を軽減することが可能となります。

  • 検査は、より効果的な治療をスムーズに進めるために行うものです。飼い主さまには、検査による正しい診断が必要であることを理解してもらいましょう。

  • 臨床徴候や検査結果から食物アレルギーを疑い、除去食療法を行います。

  • 最適な療法食による除去食療法をはじめます。
    スタート時は、症状をコントロールするために薬物療法や外用薬との併用をしてもかまいません。

    内用薬を投与する際にも、療法食をふやかしたもので与えてください。

    除去食療法の効果を判定するには、1ヵ月以上給与してください。

  • 効果が表れた場合
    新しいアレルギー反応が出現していないか、定期的な検査をおすすめします。

    効果が不明瞭になった場合
    給与した療法食で一度効果が表れたにも関わらず、数ヵ月の間に効果が不明瞭になった場合は、他の疾患や別のアレルギー反応が疑われます。

監修  増田 健一 (獣医師・獣医学博士)

犬のアレルギー診療の進め方(消化器症状)

消化器症状(嘔吐、軟便、下痢)にはリンパ球が関連するものと、IgEが関連するものがあります。

1.臨床徴候を確認する。

嘔吐
  • 若齢から慢性的または断続的に嘔吐を繰り返す。
  • 食後1時間以内に嘔吐する。

上記いずれかの臨床徴候を認め、かつ異物の摂取、感染性胃腸炎や腫瘍などを除外の上、食物アレルギーを疑います。

軟便・下痢
  • 1日の排便回数が3回以上
  • 若齢から慢性的または断続的に下痢を繰り返している。
  • 病理検査で「リンパ球プラズマ細胞性腸炎」や「好酸球性腸炎」と診断されている。

上記いずれかの臨床徴候を認め、かつ感染性腸炎や腫瘍などを除外の上、体重減少が10%未満であれば食物アレルギーを疑います。

  • ※アレルギー性消化器疾患であれば、通常3歳くらいまでに発症しますが、 飼い主さまが上記臨床徴候を問題とせず4〜5歳で初来院されることもあるため、初発の年齢には注意が必要です。

2.臨床徴候が嘔吐か軟便・下痢によって検査を選ぶ。

嘔吐
  • IgEが関連する食物アレルギーから疑う。
  • アレルゲン特異的IgE検査を実施する。
軟便・下痢
  • リンパ球が関連する食物アレルギーから疑う。
  • リンパ球反応検査を実施する。

3.原因アレルゲンが判ったら治療する。

嘔吐
  • 原因食物を除いた食事または加水分解された製品を選び食事療法を実施する。
  • 抗ヒスタミン薬による投薬治療を実施する。
軟便・下痢
  • 原因食物を除いた除去食製品を選び、除去食療法を実施する。

犬のアレルギー診療の進め方(呼吸器症状)

呼吸器症状(くしゃみ、鼻水、咳、リバーススニージング)は、一般的にダニ・カビ・花粉などの環境アレルゲンに対するIgEが関与します。

※リバーススニージングの様子

 

1.臨床徴候を確認する。

  • 若齢から慢性的な症状または断続的な発症を繰り返している。
  • 症状に季節性がある。

上記いずれかの臨床徴候を認め、かつ感染性疾患や心疾患、腫瘍などを除外の上、環境アレルギーを疑います。

  • ※アレルギー性呼吸器疾患であれば、通常3歳までに発症しますが、 飼い主さまが上記臨床徴候を問題とせず4〜5歳で初来院されることがあるため、初発の年齢には注意が必要です。

2.検査を実施する。

  • IgEが関連する環境アレルギーを疑う。
  • アレルゲン特異的IgE検査を実施する。

3.原因アレルゲンが判ったら治療する。

  • 抗ヒスタミン薬による早期介入療法を実施する。
  • 環境改善(フローリング、医療用防ダニ布団、空気清浄機、エアコンフィルターの清掃など)を行う。

⇒各アレルゲンの飛散時期について(環境改善の詳細について)はこちらをご覧ください。

オプション検査:アレルギー強度検査の使い方

アレルギーで皮膚や粘膜に集まるヘルパーT細胞の割合が多いかを見る検査です。基本的に、当検査は皮膚症状に使用する目的で利用されますが、最近では、慢性鼻炎や気管支炎などのアレルギー性呼吸器症状の症例でも異常値を示すことが分かっています。そのため、皮膚だけでなく、アレルギー性呼吸器疾患においても重症化しやすい体質の目安(炎症の重症度の目安)とすることができます。異常値であれば副腎皮質ステロイドホルモン剤を投与したほうが良いでしょう。

猫のアレルギー診療の進め方

猫のアレルギー診療の実際

猫ではIgEと疾患との関係がいまだ分かっていないことも多く、現段階で猫のアレルギー診療のガイドラインは明確になっていません。そのため、現状では寄生虫症、感染症や腫瘍などの除外診断を実施し、やはり臨床的にアレルギーが疑わしい場合にはアレルゲン特異的IgE検査を実施します。

アレルギー性皮膚炎を疑う皮膚所見

  • 粟粒性皮膚炎(写真3)
  • 頭頚部皮膚炎
  • 自傷性皮膚炎
  • 舐性皮膚炎
  • 好酸球性プラーク
  • 好酸球性肉芽腫
  • 好酸球性肉球炎
実際の食物アレルギー症例
 

アレルギーを疑う皮膚症状以外の臨床徴候

  • 若齢からの慢性的または断続的に繰り返す消化器症状※2
  • 若齢からの慢性的または断続的に繰り返す(季節性のある)呼吸器症状※3

※2:異物の摂取、寄生虫症、感染症、腫瘍の除外診断を予め実施してください。
※3:寄生虫症、感染症、腫瘍等の除外診断を予め実施してください。

環境アレルギーが原因の猫喘息症例の胸部X線写真
環境アレルギーが原因の猫喘息症例の胸部X線写真
猫喘息に特徴的所見である気管支壁の明瞭化(気管支パターン)が認められる。

猫にもリンパ球が反応する食物アレルギーがある。

猫にも犬同様リンパ球が関与する食物アレルギーが存在することが報告されているため2、猫でアレルギー性疾患(皮膚症状、消化器症状)を疑う際は、IgEの関与する食物アレルギーとリンパ球が関与する食物アレルギーの両方を考慮して診療を進める必要があります。しかし、猫のリンパ球反応検査は検査系が確立されていないため実施できません。そのため、まずはIgE検査を実施し、IgEの関与するアレルギーの有無を確認します。IgE検査で反応するアレルゲンが検出されない場合やIgE検査結果を元に治療を実施したが治りきらない場合には、リンパ球が関与する食物アレルギーを疑います。

呼吸器症状に関しては、主に環境アレルゲン(花粉、カビ、ダニ)に対するIgEが関与すると考えられるため、アレルゲン特異的IgE検査を実施し、原因アレルゲンが判明したら原因アレルゲンの回避や抗ヒスタミン薬などによる治療を行います。

⇒各アレルゲンの飛散時期について(環境改善の詳細について)はこちらをご覧ください。

猫のアレルギー診療の進め方

猫のアレルギー診療の進め方
参考文献
  • 1,Yoshiki Yamaya.,et al. Increased proportions of CCR4+cells among peripheral blood CD4+cells and serum levels of allergen-specific IgE antibody in canine chronic rhinitis and bronchitis. J Vet Med Sci.77(4):421-425 (2015)
  • 2,Rinei Ishida.,et al. Lymphocyte Blastogenic Responses to Food Antigens in Cats Showing Clinical Symptoms of Food Hypersensitivity. J Vet Med Sci.74(6):821-825. (2012)

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